0. はじめに:予備知識





★悲劇詩人たちについて

アリアドネー、三大悲劇詩人たちの名前は全員言える?

アイスキュロス、ソポクレース、えーと、
あと一人が……エウ…エウ…

エウリーピデース。

そう、その人。

この三人の男たちの悲劇は、
上演されてから2000年以上たってもなお根強い人気があるね。
完全に残っている作品も多い。

この三人以外にもたくさん悲劇詩人たちはいたが、
その作品のほとんどは散逸してしまって
もう残ってないことが多い。

ほかにはどんな人がいたの?


有名どころだと、
あの人間の分際を誰よりもわきまえていた男
ソークラテースの弟子、
アガトーンとか。
エウリーピデースとは若干時代がかぶってるかな。
とにかく三大悲劇詩人の後輩だ。

神話伝統にのっとって書くのが一応悲劇のセオリーだが、
エウリーピデースぐらいから、
伝統神話に新しい筋立てを挿入したりしてきた。
だけれど、この男はプロットを創作するどころか、
登場人物まで創作しだした

あと、そうそう、同じくソークラテースの弟子のプラトーンも
悲劇作家になりたがってたね。


ならなかったの?


いくつか悲劇を書いてる。
それに、その悲劇の断片は残っているよ。
しかし、結局この男は愛知《ピロソピアー》―
―すなわち、後の言葉で言うところの哲学の道を選んだ。
それで、
「書かれたものを信用するな―演劇を信用するな」
なーんて言っている。
彼自身、ものを書いたからこそ、
2000年たっても思想が残っているって言うのにね!

それに、彼の対話編を読んだことがある人にはわかるだろうけど、
すごく演劇的な文章を書くよ。


面白そう。

うん。それにわかりやすいしね。
たまに、演劇的というよりも、
最近で言うところの映画のようなシーンを思わせる箇所もある。

文章が良いだけじゃなくて見せ方がうまいよ。

ねえ、見せ方がうまいのはわかりましたけど、
私たちは哲学の話をしてるんでしたっけ。

おっと、話がそれた。






★劇場について


ともかく、三大悲劇詩人はもうわかったね。


ええ。

じゃあ、どういう場所で
この男達の悲劇が上演されていたかは知ってるかい。

そのくらいはわかります!

アテーナイのディオニューソス劇場でしょ。

そうそう。これを知らなかったらお仕置きをするところだ。



そう、このすり鉢状の劇場で、
悲劇、サテュロス劇、喜劇なんかが上演された。

まあだいたい、頑張れば30000人くらいは入るかなあ。

まあすごい。

アテーナイで毎年春に開催された演劇の祭典
大ディオニューシア祭は、
アテーナイの市民はとりあえず全員参加!
ってことになってる行事だからね。
ぎゅうぎゅうにつめれば多分市民全員が入れたんじゃないかな。
実際に来ていたのは市民の約半数、
16000人くらいだったような気がするけど。




★上演形態について


さて、この大ディオニューシア祭では、
毎年三人の詩人達が悲劇作品を競った。
一人の詩人につき三本立ての悲劇、
加えてサテュロス劇を上映する。

役者は初め二人、のちに三人だ。


えっ、登場人物が多いときは?

仮面や衣装をスケーネー(背景)の裏で変えて、一人で何役もやる。

大変ね。

そう。だから、書くほうも色々と工夫が必要だったし、
役者には高度に洗練された技術が要求された。

声音を変えて話したり、歌ったり踊ったりする、
そういう能力が求められたんだ。

マイクがまだない時代だから、何万人にも届く発声が必要ね。

オペラ歌手なみの肺活量が必要だね。
でもまあ、すり鉢状の円形劇場は驚くほど音響が良い。
ものすごく響きが良すぎて、
客が入って丁度良くなるくらいのところもあるしね。

なんだか魔法や神業がかった劇場ね!

そうさ。だって僕のための宗教行事が行われてたんだから。

さあ、予備知識はこのくらいでいいだろう。
実際に作品を見てみよう。


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